距離を超える協同の力 ― JAたじまが示す、地域組織の新しい運営モデル

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JAたじま(たじま農業協同組合) 様

JAたじま(たじま農業協同組合)は、兵庫県北部の但馬地域を管轄する総合農協です。スローガン「たじまに生きる、たじまを活かす」のもと、地域農業の振興にとどまらず、住民の暮らし全体を支える多面的な活動を展開しています。

はじめに:縮小と分散の時代に立ち向かう

「人がいない」「移動が負担だ」「情報が届かない」。 日本各地の地域現場で広く聞かれる課題です。

人口減少と高齢化が進む中、地域の産業や組織は「縮小と分散」という構造的な変化に直面しています。従来のように都市に人材を集めて大量の人員で業務を担うモデルは、すでに限界を迎えています。

農協(JA)も例外ではありません。多くの職員を配置できた時代は終わり、今求められるのは「少人数でも複数拠点を効率的に運営し、サービスの質を維持する仕組み」です。

その最前線に立っているのが、兵庫県北部を拠点とする たじま農業協同組合(JAたじま) です。同組合が導入したのは、国産常時接続ツール「お隣オフィス」。一見小さな試みですが、これは地域に根ざした組織が直面する課題に対する、持続可能な解決策といえます。

1. 支店を維持できない「縮小と分散」の現実

人口減少と産業の空洞化

日本の人口は2008年の約1億2,808万人をピークに減少を続け、2025年には1億2,317万人まで落ち込んでいます。遠からず1億2,000万人を割り込みます。地方では若年層流出と高齢化が加速的に同時進行し、高齢化率が50%超の自治体も現れています。

この人口動態の変化は、地方の現場課題を一気に表面化させました。
「人手は足りないが、拠点を閉じるわけにはいかない」。銀行、物流、JAの店舗など、生活に欠かせない地方拠点では、かつて5人で担っていた業務を今は2〜3人で切り盛りする状況が増えています。場合によっては、一人が複数拠点を兼務して支えることも珍しくありません。「つまり、拠点は残すが人は減る。」これが地方社会が直面している現実です。

JAたじまに凝縮される課題

JAは広域で金融・共済・営農を担っており、拠点が分散しやすい特性を持っています。兵庫県北部に拠点を構えるJAたじまでも支店(信用・共済)と営農生活センター(営農)が別々に存在し、それぞれに責任者を置く形で運営されてきました。

しかし人員不足の中で、組織は「一人の支店長が両拠点を統括する一体化運営」へと舵を切ります。

「信用・共済と営農を一人の支店長が統括することは合理的で総合的なサービスの提供も期待できる。ただ拠点が離れていると、運営に支障が出る。その“距離”をどう埋めるかが課題でした」

― JAたじま 総合企画室 経営戦略課 黒田祐介氏

実際、支店長は両拠点を日常的に行き来せざるを得ません。片道に数十分かかることもあり、その移動中は相談や判断が滞り、小さな確認が積み重なると、業務効率やサービスの低下につながるリスクがありました。

こうした状況を整理すれば、JAたじまの現場には──

  • 分散拠点による非効率
  • 人材不足による統括者の負担増大
  • サービスの低下リスク

といった課題が凝縮されていたことがわかります。

2. 改革の行方を左右する“距離”という障害

一人の支店長が二つの拠点を統括する「一体化運営」は組織の合理化とJAらしい総合的なサービス提供を進める上では正しい選択でした。しかし現場で立ちはだかったのは、物理的な距離というシンプルにして深刻な壁です。

各地で一体化する支店と営農生活センターは、場所によっては数キロ離れています。支店長が一方にいるとき、もう一方では判断や承認が滞ります。小さな遅延が積み重なれば、業務効率だけでなく、組合員サービスの質にも影響を与えかねません。

黒田氏は振り返ります。

「支店長が移動している間は、もう一方の拠点で即時に対応できないことがありました。小さなことの積み重ねですが、業務効率やサービスに影響する可能性があると考えていました。」

改革の方向性は間違っていない。しかし“距離”という課題を解消しなければ、せっかくの合理化も形骸化してしまう――これがJAたじまの現場が抱えたリアルでした。

3. 解決の糸口:「お隣オフィス」という常時接続窓口

「距離」を埋める手段を探していたJAたじまが目に留めたのが、日本製の拠点間常時接続ソリューション「お隣オフィス」でした。

当初は「ZoomやTeamsとどう違うのか」という疑問がありました。
黒田祐介氏も、導入前はその差を見出せずにいたといいます。

「正直なところ、デモを見るまではWeb会議システムと大きな違いは分かりませんでした。ただ、実際に体験してみると画面の鮮明さやタイムラグの少なさがあり、想定する用途に十分対応できると感じました。」

導入の決め手は品質だけではありません。
JAの職員にはITに不慣れな人も多く、「誰でも迷わず使える」ことが必須条件でした。

「操作が複雑だと現場には浸透しません。お隣オフィスは常時接続で“つなぐだけ”というシンプルさがあり、これなら現場にも使ってもらえると感じました。」

さらに、官公庁や自治体など公共分野での導入実績があったことも、選定を後押ししました。信頼性が担保されていると感じられたことで、安心して採用に踏み切れたのです。

信頼できる品質と扱いやすさ、そして公共分野での実績。
この三つの要素が揃ったことで、「お隣オフィス」は地方拠点で導入されるべきツールとしての真価を決定づけました。

決め手
  1. 高品質(鮮明な映像・低遅延)
  2. 誰でも扱えるシンプルさ(常時接続で“つなぐだけ”)
  3. 公共分野での導入実績(信頼性と安心感)

4. 活用の現場:一体感が生まれる瞬間

導入後、「お隣オフィス」はJAたじまの拠点を日常的につなぐ“窓”として活用されています。

まず実現したのは、支店と営農生活センターを同時につないだ朝礼でした。
これまで支店長の方針を両拠点に同時に伝えることは難しく、どうしても温度差が生じていましたが、導入後は一度の朝礼で全員に共有できるようになりました。

また、日常の相談や確認も即時に行える環境が整いました。支店長がどちらの拠点にいても、職員は画面越しに「ちょっといいですか」と声をかけられる。これにより小さな判断のスピードが上がり、現場での滞留が減りました。

黒田祐介氏も、この効果を次のように評価します。

「想定していたとおり、朝礼や日常の相談が遠隔でもできるようになりました。導入前の状況を考えると、部署内のコミュニケーションを高める効果は確かに出ていると感じています。」

さらに、心理的な安心感も大きな変化でした。「いつでもつながっている」という感覚が、職員同士の距離を縮め、雑談やちょっとした声掛けが自然に生まれるようになったのです。これは数値化しにくいものの、組合員・利用者への対応において「待たせる時間の短縮」や「相談しやすさ」といったかたちで表れています。

遠方地点との常時接続でコミュニケーション

5. 広がる応用可能性

導入効果を確認したJAたじまは、「お隣オフィス」をさらに広い場面で活用する構想を描いています。

本支店間の会議

これまでは支店長や職員が集まるために移動が必須でした。しかし「お隣オフィス」を使えば、拠点を結んだまま会議を進められます。出張を減らし、現場を離れずに議論に参加できることで、議論の質とスピードを維持できます。(PC資料の共有も可能)

窓口対応

専門職員が常駐していない拠点でも、画面越しに本店や他拠点の専門担当者とつなげば、その場で高度な相談に応じられる。これは「少人数でも拠点を維持できる力」となり、利用者にとっては「専門家にすぐ相談できる安心感」となります。

黒田氏はこう期待を語ります。

「本支店間のコミュニケーションや窓口対応に広げられれば、少人数でも質の高い運営につながると考えています。」

常時接続は、日常の延長線上にある朝礼や相談だけでなく、会議・窓口といった組織の基盤業務に広がる──そこに「お隣オフィス」の本当の可能性があります。

執務室に設置したお隣オフィス

6. 社会構造への示唆

戦後の日本は「集約・大量生産・都市集中」で成長してきました。大都市に人材を集め、大人数の組織が効率を高めることで産業を牽引してきたのです。

しかし人口減少と高齢化が進む今、その前提は崩れています。これから必要なのは、「分散・少人数・リモート連携」を前提にした新しい運営の仕組みです。

JAたじまが導入した「お隣オフィス」のような常時接続ツールは、この転換を支える基盤となり得ます。

つまりこれは単なる通信ツールではなく、地域を支える新しい協働の基盤といえます。

  • 組織運営の面では、少人数の分散拠点をまとめるリーダーシップを可能にする。
  • 地域経営の面では、人手不足の中でも生産性とサービス品質を維持できる仕組みとなる
  • 公共サービスの面では、農協モデルが行政・医療・教育などにも応用できる可能性を示している。

つまりこれは単なる通信ツールではなく、地域を支える新しい協働の基盤といえます。

7. 距離を超える協同の未来

JAたじまの挑戦は、単なるシステム導入にとどまりません。
それは「縮小と分散」という時代の課題に対し、地域組織が持続可能性を確保するための実践でした。

黒田祐介氏はこう結びます。

「距離に縛られないことで、協同の力はむしろ強まったと感じています。私たちはこれからも“近くて頼れるJA”であり続けたいと思います。」

“距離を超える協同”は農協に限らず、医療・教育・行政・民間企業など、あらゆる組織が直面する共通の課題解決策となり得ます。人口減少と人材不足の中で、いかに分散拠点を維持し、信頼を守り抜くか。その答えのひとつを、JAたじまの事例が示しています。

まとめ

「拠点は残すが人は減る」時代に必要なのは、距離を超えて人と人を結ぶ新しい協同のかたちです。

あなたの現場でも、“距離”が壁になっていませんか?
その壁を越える仕組みが、次の一歩を支えます。